前回書いた広島を発ち、また新幹線に揺られていた私は、山陽新幹線の終着駅である博多で降りることにした。ドアが開くとその正面、向かいのホームに、レールスターこと700系E編成が静かに佇んでいた。

「ひかりレールスター」専用車両として投入されたE編成は、グレーをメインカラーに据えて、黒と黄を差すカラーリングの車両。これまでの白を基調とした東海道・山陽新幹線車両とは一線を画す色使いに心惹かれていたのは、私だけではないはず。その名の通り私にとっては新幹線のスターだった。
博多駅まで来た目的の1つは配線の撮影だったのだが、この時は珍しく配線よりも車両に足が向かってしまう。普段は車両よりも線路の配線ばかり目を奪われる「配線鉄」としてやらせてもらっている私だが、今ばかりはそんなことも忘れてスターに目が釘付け。自分でも珍しいと思う。これほどE編成が好きだったとは。

車体側面のLEDが刻むのは「博多南」の文字。そう、この車両はこれから博多南線を行き、博多南駅へと向かうのだ。朝夕以外は1時間1本のダイヤにもかかわらず、私が博多に着いたタイミングはばっちり。それならばと博多南までレールスターとともに向かうことにした。
恥ずかしながら、E編成に乗車するのは今回が初。「ひかりレールスター」としての運用では乗車したことは一度もない。
博多南線は、博多駅から山陽新幹線の車両基地「博多総合車両所」に併設された博多南駅までを結ぶ路線。現在でこそ大半の区間を九州新幹線と共有しているが、九州新幹線全通した2011年以前は全線が車両基地への回送線で、その線路を有効活用した路線にすぎなかった。
この路線の面白いところは、全線が九州にありながらJR西日本が管轄していること。併設する車両基地も山陽新幹線専用なので、博多南線はあくまでも山陽新幹線の支線ということだ。さらに、運賃含めて在来線として扱われていることも興味深い。片道たった330円で、全席自由席の新幹線に乗ることができるのだ。内訳は運賃が200円と、特定特急料金130円。なんとも贅沢な在来線である。
博多南方向の車両から乗り込むと、車内は比較的空いていた。しかし、2両目、3両目と移動するにつれて徐々に人が増えていき、最後尾の車両では満席に近い埋まり具合。土曜の昼前だったが、座席は5〜6割程度埋まっていたのではないだろうか。特に学生が多いのが衝撃的で、普通の新幹線では中々見られない学生だらけの光景が新鮮に映った。
静かに車両が駅を発つ。在来線扱いの制約で時速120キロ以下でしか走行できないのだが、高架を駆ける光景は普通の新幹線に遜色ない。九州新幹線が何本も走っている場所なのだから当然なのだが、これが330円で乗れる電車なのが不思議である。
5分ほど走ると車両はわずかに減速し、少し音を立てて左へと曲がってゆく。車窓から外を眺めると、本線から分岐して、車両基地への入庫線へと吸い込まれていく。ここから先は九州新幹線では見られない、博多南線だけの景色が始まる。
鉄路は本線を横目に下って行く。本線を挟んで反対側でも、同じように出庫線が姿を見せる。出庫線は本線の下をくぐり、この車両のいる入庫線と合流する。ここから先は無数に枝分かれする分岐の連続。駅へ向かうこの車両は全ての分岐を右へ右へと渡り、車庫の外側へと進む。分かれ道がなくなったら、ようやく博多南駅のホームに入る。博多駅からここまで8分。短い時間ながら長くも感じる道のりだった。

1面1線のホームは8両編成対応で、16両編成の車両では停車できない。ホームドアは未設置。改札のある博多寄りにはベンチ(1人掛け)も設置されているが、終端方に向かって徐々に狭くなっていき、黄色い線の内側で人がすれ違うにはギリギリな幅となる。改札はホームから階段を10段程度の下りてすぐの場所で、改札機はたった4機。あらゆる面で新幹線が停車する駅とは到底思えないほど、静かで寂しい設備である。

だが決して駅のネガキャンをしたいわけではない。むしろ感動したことすらある。それは、改札口の目と鼻の先で新幹線を見つめることができることだ。改札がホームの端にあるため、見えるのは車両のご尊顔。乗車券を買って新幹線に乗らずとも(乗っても330円だが)これほどの距離で静止した新幹線を見つめられるのはとても貴重だ。私が子どもの頃にこの近くに住んでいれば、きっと親の手を引っ張ってこの駅へ何度も通っていただろう。

私はきっと、この光景に出会うためにここまで足を運んできたのだ。そう思ってしまえるほど、旅を終えてフリック入力している今になっても、あの改札越しに見たレールスターが、私の頭の中に鮮明に焼き付いている。
大阪から出発したこの旅は、地理上ではここで折り返しとなる。改めて新幹線に乗って大阪方向へ戻っていくのだが、この旅はまだここでは終わらない。続きはまたこの「m.p.note」で。

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