覇者の風格漂う広電のターミナル

私の鉄道を歩いて語りたい

6月のこと、台風と行き違うように山陽新幹線「のぞみ」に乗り西へ。自由席と自由席の間の通路には、老若男女がみな、朝ラッシュのサラリーマンの如く疲れ切った顔で立ち尽くしている。指定席券のない私もその一員だ。鉄道が好きな私ですら苦しみを覚える時間と空間に嫌気がさし、衝動的に下車して町へ出ることにした。中国地方最大の都市、広島である。

次のスケジュールの関係でここに滞在できるタイムリミットは約40分。観光するにしてはあまりにも短い。

そこで訪れることにしたのは、日本最長の路面電車網をもつ広島電鉄の広島駅停留場。広島駅の外に接した変則4面3線ホームから、駅前大橋から広島駅ビル2階に飛び乗るような4面4線ホームに移設したのが、2025年8月3日のこと。いわゆる「駅前大橋ルート」だ。

前に広島に訪れたのは2024年8月。メインブログで広電とアストラムラインの配線図ページを作成するための撮影旅行だった。当時はまだ駅前大橋ルートが建設中で、旧線の廃止前を狙っての訪問だったが、新線の開業後に早めに再訪して、記事を新たにしたいと思っていたのだ。

改札を出て駅舎の通路を南へ進むと、いつのまにか新しい駅ビル「minamoa」にいることに気づく。まっすぐ進んだ正面、視界の先に路面電車が並んでいる。これが移設した広島駅停留場。地上ではなくビルの2階にあるのだから新鮮だ。

建物を埋め尽くす人混みの奥に路面電車が見える姿は異様

ホームでの撮影を済ませ駅の外へ。隣の稲荷町停留場へ向かってお散歩することにした。

駅前大橋から広島駅を振り返ると、本当に路面電車の駅が2階にあることが分かる。人間や車より高い位置に架けられた、出来たてで無機質な橋梁。そんな線路の上を、趣のある路面電車が走っていく姿には奇妙な違和感を覚えざるを得ない。ビルに向かって電車が吸い込まれてゆく光景に、近鉄阿部野橋駅や南海なんば駅のような、大手私鉄のターミナル駅の面影を重ねるのは私だけだろうか。広電こそ広島の交通網の大黒柱であると、誰もが感じることだろう。

単車で乗りこむには大きすぎる駅ビル

路面電車は古いもの、という固定観念があった私だが、宇都宮ライトレール開業を機に徐々に書き換えられている感覚がある。広島駅移設も私の価値観を容赦なく上書きしていく。

歩いている最中、JRの227系「Red Wing」ラッピングが施された、5100形に遭遇。これからその赤い羽根で広島駅の2階まで飛んでいくんだね。

電車名で「Red wing」ってかっこよすぎるよ

間もなく稲荷町停留場に到着した。以前は一直線にのびる複線に、2面2線の相対式ホームがあるだけで、配線的な面白みには欠ける駅だった。しかし現在では、線路はダイヤモンドクロッシング(十字交差)を形成し、ホームは交差点の四方に散っている。しかもただ交差するだけでなく、北⇔西をつなぐ渡り線もあるのだからたまらない。路面電車では稀代の駅へと生まれ変わったのだ。

3両連接車が2編成並んでも余裕のあるBホーム

2駅を回りここでの目的は無事に達成。せっかくなので1駅ではあるが広電に揺られて広島駅停留場へ戻る。
まだ時間の余裕があったので3階から駅を眺めることにした。広島駅停留場は1フロア分が大胆に吹き抜けており、上階から見下ろすことができるのだ。

路面電車の駅なので商業施設や通路との境目がないのもおもしろい

頭端式4面4線の高架駅。ターミナル駅と呼ぶにふさわしい風格だ。宮島口や西広島とも異なる、都市の中心らしさを感じる。路面電車が新幹線直結の駅に堂々と乗り込むことができたのは、広島の交通の支配者であり、路面電車の覇者であることの何よりの証明だろう。

冒頭に「観光する時間はない」と書いたが、私にとっては2駅歩くだけでも立派な観光であり、満足な時間であった。
ここで広島を後にして、次の目的地へと向かおう。この旅の続き、そして全貌は、いずれまたこのサイトで。

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